プロローグ
夏の暑さを強調するかのように、蝉たちの演奏は至る所からうんざりするほど大きく鳴り響く。
俺はスイッチを入れたり、切ったりする機械のように、ただ繰り返される変わる事のない日々をたんたんと過ごしている。
今日も太陽が休む暇もなく、ギラギラと照らし続けている中、俺はいつものように大学へ通うため、地下鉄のホームへと歩を進めていく。
ホームへと向かう階段からその中を見ると、人気バンドのコンサート会場のように、ごった返しの状態だ。これもいつもと変わらない光景だ。
明日もその次の日も、永遠に変化のない日常が暗夜に住み着く死神の如く、俺の命を少しずつ削り取りながら、その命亡くなるまでそばに憑き続ける。
そんな現実に嫌気がさした時だ、俺の側を白いワンピースを着た黒く輝く腰まで垂らした髪の美しい女性が、うつむきかげんに階段を下りていくのに気が付いた。
彼女は、俺を別段気にする様子もなく、静かな足取りで先に降りていく。
ただそれだけのことなのに、なぜか彼女の事が気になって、彼女が去っていった後でも、それを追うように視線をそらす事が出来ないでいる。
きっと彼女が綺麗だから、見初めたんだろう。そう思っていた。後から思うと、彼女の周りから発せられるただならぬ雰囲気に反応していたんだということが分かった。
夢から覚めたように、ハッと気を取り戻した俺は、乗り遅れないように急いで暑苦しい集団の中へと入っていく。
あと3分かぁ。
俺の前のおっさんの黒い毛に混じって生えている白髪の本数を無意識に数えながら、いつも乗っている電車が来るのを待っていた。
それから2分たった頃、ふと横を見るとあのワンピースの娘が、密集している集団を通り抜け、ホームぎりぎりの所まで向かっていた。
「おいまさか!!」
一瞬俺の頭の中で、不吉な映像が流れ出す。しかし、すぐに思い直す。
あんな容姿が整っている彼女が、自殺なんてするはずがないと思ったからだ。いや、そう思いたかった。
ホームに電車が近づいてくる合図が流れる。暗い闇の奥から、かすかに光が見えてきた。
なぜだろう、さっき拭い捨てたはずの不安がまた胸のそこから込み上がってくる。
再び彼女の方を見てみと、彼女はさっきまで立っていた場所で、突然俺の視界から消えてしまった。
あまりの突然のことで俺はすぐに対応する事が出来ず、ただ呆然としていた。
彼女の近くにいた人たちは、次々と騒ぎ始め、大きな悲鳴を上げる人、衝撃的な場面を見て動揺し、その場から逃げ出そうとする人、まだ状況がつかめず立ち尽くす人たちがいたのをかすかに覚えている。
俺は知らず知らず、彼女の落ちたところに向かって走っていた。
別に彼女を助けようと走ったわけではない。そもそも、俺には正義感なんてものない。また、勇者ぶろうなんて考えも微塵もない。
俺は、この変化も何もない腐った現実から飛び出したかった。彼女はそんな俺の願いを叶えてくれる、俺を新たな世界へと連れて行ってくれる、そんな気がした。だから、俺は彼女の元へ向かった。
ホームから飛び降りた瞬間、人々のざわめきと次第に近づく電車のブレーキの音が、まるで悪魔がこんな俺を見て馬鹿笑いをしているように聞こえた。
それを聞いた俺はもしかしたら笑っていたかもしれない。なぜなら、俺は縛られた現実から、開放された世界へと旅立つ切符を手にする事が出来るのだから。
視界が、電車のライトで一杯になり、俺は気を失ってしまう。
次に目覚めるときは、俺の憧れる世界にいることを願って……。
「あ、あの大丈夫ですか?」
俺はそのかわいらしい天使のような声を聞き、思わず俺は天界にいるのかと思ってしまった。
「ここは天界なのか?」
思った事を口にすると、彼女は笑ってくれた。本当に天使のようなその笑顔は、日の光よりもまぶしく感じられた。
俺は体を起こし、周りの光景を見ると、そこは明らかに日本ではなかった。ところどころに古い西洋の様な建物がずらりと並び建っていた。
「ここはどこなんだ……」
彼女も同じ思いだったらしい。二人して周りを見渡し、少しでも情報を手にしようとした。
俺たちは、当てもなく町を歩く。すると一人の少年が、大きな声を出して新聞を配っていた。
すぐさま俺たちは、その子から新聞をもらった。そのとき、俺たちを見た少年の唖然としたあの顔は、しばらくの間忘れる事は出来ないだろう。
その新聞は、英語で書かれていた。残念だが俺には英語の読解力というものがまるで無い。
しかし、彼女は悠然とした態度で、読み始めた。
数分経ったとき、彼女はなぜかその場に座り込んでしまった。その表情は、先ほどの天使のような笑顔は無くなり、代わりに地獄を見ている罪人が感じる絶望の色に染まっていた。
彼女は震える声を押しつぶし、小さくしかし、はっきりと俺の目を真っ直ぐに見つめながら言った。
「こ、ここは……中世のイギリスよ。」
俺は意味も無くここへ来る前の、あのつまらない現実で埋め尽くされていた日本から見た空と変わらない、青くどこまでも続くこの空を眺めた。それと同時に、これから起きるであろう新たな日常に、心が狂喜で震えるのを密かに感じていた……。
(続く)
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初の小説を書きました。正直、疲れましたね(笑)。もう眠いですよ。
この物語の注目するところは、やっぱり二人のこれからの展開ですね。そして、なぜ主人公は現実に飽き飽きしてしまったのだろうか?なぜ、彼女は自殺しようとしたのか?この理由もおいおい出す予定です。
次回は、二人はしばらくして、ある有名な錬金術師に会います(友達がどうしても錬金術師を出せという強い希望がありましてね…)。そこからどうしようかは、これから考えていくところです。賢者の石とかホムンクルスとか(定番だ〜)出そうかなと考えています。
意見または感想等ありましたら、どんどん言ってください。時間はかかるかもしれませんが、何とか頑張って続きを書くので、宜しくお願いします! ―久路辺より―
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