ミルトが「それ」と言ったのは、僕の使っている魔術剣「フレイムブランド」のことだ。
これは僕とミルトが友人になった時に、記念にとミルトが僕にくれた物だ。
・
・
・
「お前…名前は?」
僕は、ふいっと目を逸らす。
「ケビン…」
当時の僕は壁を作っていて友人と呼べるのはパートナーのディンゴぐらいだった。
「ふ〜ん、俺はミルト、ミルト・キルフィルド、よろしくな」
そう言って彼女は…いや当時の僕にとって「彼」は僕の手を握ってぶんぶんと振る。
「今日から、俺とお前は親友だ。よろしくな!」
そう言って彼は去っていき、僕はそれをポカンと見ていることしか出来なかった。
それから、彼は僕の面倒をこまめに見るようになった。
…朝起こしに来る。
…課題の出来具合を確かめに来る
…講義をサボろうものなら耳を引っ張って連れて行かれる。
そんな彼にいつも僕は同じ問いを投げかけた。
「何でこんなに、僕に構うのさ?」
この問いに、彼もいつも同じ答えで答えた。
「俺のよく知っているヤツに似ているからな…」
と…寂しそうな顔でそう言うだけであった。
そして決定的な事件がおきた。
この学院は実力主義のため、実力さえあれば称号(クラス)を授けられる。
それによりミルトが、僕らの中で一番早くリトルスターとなったときの事であった。
一部の心無い者たちがミルトの事を侮辱したのであった。
「俺はそんな事はしていないっ!」
「じゃあ何で、先に入学したはずの俺たちがリトルスターになれないんだよ?!」
「そんな事は知らねぇよ!」
「フンッ!混ざり物の癖に偉ぶってるんじゃねえよ!」
「ッ!」
混ざり物というのは、混血児の事を指す。(ミルトはエルフと人間のハーフであった。)
時にそれは侮蔑などの対象にされてしまう。
純血である事はそれだけで誉れだと言うように……。
ドカッ!
ミルトは目に涙を溜めながら耐えている。
そして僕は、そいつの前に立ち塞がり思いっきりぶん殴っていた。
今でも、あの時自分でもなぜあそこまで怒ったのかは分からい。
しかし、ミルトが泣いている…ただ、その事実が僕には許せなかった。
「いってぇなぁ…。誰だ?殴ったやつは…」
と僕の方を見て、そいつは薄ら笑いを浮かべながらこちらを向く。
「あぁ、お前か…。混ざりモンとおままごとしてるヤツってのは…」
「うるさい!あんたがミルトの何を知ってる!?ミルトの努力を知らずに何が「混ざり物」だ!」
それでも僕はムシャクシャが収まらずにそいつの顎にもう一発、拳をを叩き込もうとした。
「やめろ!」
しかし僕の手が再び目の前の人物が捕らえる事はなかった。
(ミルトが…泣いている…)
それが僕の初めて見たミルトの女の子らしい一面であった。
そしてそのままミルトは走り去る。
「ミルト!」
僕はその場から逃げ去るミルトを追いかける。
結局僕がミルトに追いついたのは、学院を出て、街を通り抜けた先にある丘だった。
「ミルト…」
ミルトはそこで誰も見ていないと思ったのか、泣いていた。
人目をはばかる事もなく、涙を流し大声を上げながら…。
「ケビン…か?」
「うん……」
「情けないところ見せちまったな…忘れてくれ」
「いや…それは……出来ないよ」
そう言って僕は迷いながらも彼の隣に腰掛ける。
そして二人とも何も言うことなく、ただ静かな時間が過ぎていく。
「前……にな」
「ん?」
最初に沈黙を破ったのはミルトの方であった。
「前に……聞いたろ?」
「何を?」
「どうしてお前に…ケビンに構うかって…」
「うん」
僕は静かに話を聞く体勢になる。
「最初…俺はお前の事、嫌いだったんだ」
「えっ!?」
僕は驚き小さな声を上げる。
「なんかさ…他人とかだけじゃなくてさ…自分を含めたすべてを見下している感じがしてさ…。俺にとってそれは気分のいいモンじゃなかったさ。見ず知らずの他人に蔑む様な視線を向けられるんだぜ?そうだろ?」
「うるさいなぁ…男ならそんな細かい事、気にしなきゃよかったろ?」
ミルトの言う事はハズレではなかったので、僕は自嘲気味笑って返す。
「え…?男…俺は女だぞ…」
ショックを受けた声でミルトがそういうのを聞いて僕はしばらく固まったが
「ええぇえぇええぇええ!お、おんなぁあああ!」
とミルトの方を見て驚きの声を上げる。
「あぁ、そうだ。…もしかしなくてもお前気づいてなかったんだな…」
ため息をつきながらミルトは寝転がる。
「そうか、それでか…もういいさ。話を続けるぞ…」
その一言で少し緩んだ空気が再び引き締まる。
「だけどさ…ディンゴって言ったっけ?あいつと一緒のときだけは心底うれしそうな顔してたんだ。」
「そうだね…僕にとってはあいつだけが親友だったから…」
「だった…?まぁ、いいか。それでさ、俺、思ったんだよ。「あんな顔できるんだ」ってな。それで…あんな顔できるんだったらいつでもそんな風にしておいてやりたいってな。あの目をしたヤツの辛さは俺も知っているから…」
「それってどういう…」
「何回も言ったと思うが俺のよく知っているヤツと、お前はよく似てるんだよ……だから、何かきっかけがあれば、そんな目しなくなる事もよく分かってたんだ…」
ミルトはそう言って、一瞬憂いを帯びた目をしたがすぐに元通りになる。
「だから、きっかけになりたかったんだ…まぁ、なれたのかはわから…」
「なれたよ。今までの僕だったらきっとあんな事言ってないよ…。それにさっき、「だった」って言ったのは、僕がミルトの事を親友だと思っているからだよ。」
僕はミルトの言葉を遮ってそう言った。
「親友……か」
ミルトはそんな僕の言葉を複雑な表情で聞いている。
「どうした?ミルト」
「なんでもない……そうか…これを持っとけ」
ミルトは無造作に一本の短剣を僕の方へと投げる。
「うわっと、とと…いいの?ずいぶん大事にしていたみたいだけど」
暇さえあれば手入れをして磨いているのをよく見かけていたので僕はそう訊ねた。
「いいんだよ。これはそういう使い方をするもんだからな」
「?」
僕が首をかしげるのを見て、ミルトは立ち上がって背中やお尻についた草を払う。
「もう、大丈夫だ。帰ろう、ケビン」
「うん」
それが僕とミルトが真の意味で友人となったときだった。
第5話:White and blue
「おーい、おきろー」
先ほどのシーツを体に巻いた少女がケビンを突付いて起こそうとしている。
「うっ!う〜ん」
頭と右手がズキズキと痛むのを感じながら意識を徐々に浮上させていく。
「殺しちゃったかな〜?」
反応がないのを見て少女はケビンを再び突付く。
「はっ!ここは…」
ケビンは痛む頭を振りながら、今の状況を確認する。
「起きたっ?!」
「えっと……」
ケビンが最初に見えたのは白い毛の塊。
それをすっと撫ぜるとピクピクッと震える。
「なっ!どこ触ってんのよ!ヘンタイ!」
少女は、ビタンという痛そうな音と共にケビンの横っ面をはたく。
「痛た…」
「勝手に尻尾触るなんて、セクハラもいいところよ!」
次に見えたのはコバルトブルーの髪と群青色の吸い込まれそうな瞳。
「ごめん……って尻尾!?」
ケビンは目の前の少女を改めて見ると普通の女性と違う事に気がついた。
先ほどの尻尾もそうだが、顔の横からはとんがった大きな白い耳が生えている。
「それ…本物?」
ケビンは少し呆気にとられながらそれを指差して少女に聞く。
「「本物?」って偽者があるの?」
「いや…そんな事ないけど…その尻尾と耳は……もしかして君は、昨日の狼なのかい?」
「昨日……えぇ、そうよ」
少女は少し考えてから、首を縦に振って肯定の意を表した。
「そうか……まさかとは思ったんだけど…」
(「チェンジリング」か……もういないと思ったんだけどな…)
「チェンジリング」とはいわゆる取替えっ子のことである。
それは、錬金術と魔術の負の遺産のひとつでもある。
錬金術で人体の組成を変換し、魔術でその魂まで操作するという、神に近付こうとした古の人々の愚かなる行為。
その為この技術はずいぶん昔に破棄されたはずだ。
しかし本来「チェンジリング」とは、「獣の力を秘めた人間」であり、変身できる力など大昔の御伽噺の中の狸や狐ではないので、そんな力を持っている獣はいないはずだ。
「単刀直入に聞こう。君は「チェンジリング」なのかい?違うのならば君は一体何者なんだ?」
ケビンは少女の眼を見つめながら訊ねた。
「私は…そうね。あなたたちの言い方をすれば「白の眷属」とも「風華の使者」とも呼ばれていたわ」
「「白の眷属」…それに「風華の使者」…?」
ケビンはしばらく考え込むが結局、解らなかったのか少しため息をついた。
そして再び少女に向かい合って話し始める。
「まぁ、いいや…。そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はケビン、ケビン・ラングフォート、君は?」
「リオン…」
「苗字は?」
「そんなのないわよ。別にいいじゃない。ところでもう行っていいの?」
リオンと名乗った少女はシーツを体を巻いたまま立ち上がる。
「行くってどこに?」
「あなたには関係ないわ…。とにかく私は行かなくちゃ行けないの。さよなら」
ケビンの問いにリオンと名乗る少女は突き放すような声で答えてドアへと向かおうと歩き出す。
しかしその歩みは頼りなく、3歩も進まないうちに倒れこんでしまう。
「大丈夫!?…無理はしない方がいい」
ケビンは急いでリオンと名乗る少女を抱き上げてようとする。
「触らないで!」
その途端、ケビンの右手はパシッと乾いた音と共に払われる。
「くっ!」
ケビンは顔をしかめてその払われた手を掴む。
「ごっ、ごめん…」
そんな風に痛がったのが意外だったのかリオンと名乗る少女ははっとしたような顔をして謝る。
「気にしなくていいよ…ちょっと大げさだったかな…」
ケビンはそう言いながら、少しだけ苦しげな笑みを浮かべた。
その手には包帯が巻かれていて少しばかり血が滲んでいた。
「もしかして…その手、昨日私が……」
「なんでもないよ。さぁとりあえず適当に服を出すから、それを着て、少し落ち着こう」
ケビンは少し強い口調でリオンと名乗る少女の言葉をさえぎってそう言った。
しばらく片手で器用にごそごそと箪笥の中を漁るケビン。
そして適当に服を取り出してそれをリオンと名乗る少女に手渡す。
「とりあえずこれを着るといい。後でミルトに言えば女物の服も貸してくれるかもしれないから…」
(けど…女物なんて持ってるのかな?)
そう言ってからケビンの脳裏にそんな考えがちらりと掠めたが、気にせずに部屋を後にしようとする。
「どこ行くの?」
というリオンと名乗る少女の問いにケビンは
「外に出てるよ。着替え覗くのはダメだと思うから…」
「あっ!…」
リオンと名乗る少女は自分の格好を改めて確認して再び顔を赤く染める。
「それじゃっ!」
ケビンは、リオンと名乗る少女が怒り出さないうちにさっさと部屋を出る。
そして先ほどから血の滲んでいる右手を押さえた。
「っ痛ぅ〜。参ったな…鎚もろくに握れないじゃないか」
包帯を解くと昨日の傷口が開きかけているのがわかった。
「ミルトに事情を説明するついでに、医務室にも寄らないといけないな」
ケビンはそう呟いてから、包帯を巻きなおして傷を隠す。
それと同時に服を着た少女が部屋から出てくる。
「こんな感じで…いいのかな?」
ケビンが少女に渡した服はいたってシンプルなカッターシャツと作業用のベストそしてだぼだぼのズボンであった。
「尻尾が隠れる余裕は大丈夫?」
「えぇ、ありがとう。けど隠すのなら問題なのはどちらかというと、この耳はどうするの?」
「それなんだけど…これをかぶったらいいと思うんだけど…」
とケビンは古ぼけた帽子を被せる。
「ひゃん!?」
「とりあえずミルトの部屋に行くか…」
「どこ?そこ…」
リオンはとても不安げに尋ねる。
「大丈夫だよ。僕の親友、昨日一緒に居たんだけど覚えてない?」
「うん……」
ケビンの言葉を聞いてもリオンは不安そうな顔をしたままだ。
「とりあえず…もう講義の時間だから、僕たちみたいな研究生はみんな自室にいると思うし…今だったら誰にも見られないはずだよ」
ケビンは左手を彼女の目の前に差し出す。
「鍛冶師が利き手を差し出す」それは信頼の証である。
そのことを知ってか知らずか、彼女は顔を少し緩めてケビンの手を取った。
「よろしくね、ケビン」
「よろしく、リオン」
第6話:silver tail
ここは学院内の一室。
大量の書類が散らばり、足の踏み場がない状況で奥の書斎机の椅子に腰掛けている人物が一人。
そんな風に書斎のような場所もあれば少し奥には鍛冶場の様な場所と小さな作業机が置かれている。
コンコン
ノックの音がした。
「失礼します」
静かな声がして一人の少女が入ってくる
「おらー、「入っていい」なんて一言も言ってねぇぞ」
気だるそうな声で机の奥の人物が、文句を言う。
「お久しぶりです。クロード先生」
少女は、それを無視した。
「んだよ…だから…」
机の奥の人物は、不機嫌そうに煙草を銜える。
少女はそれを見て、つかつかと歩み寄るとそのタバコを取り上げる。
「何すんだっ!」
机の奥の人物…若い男は不機嫌そうな顔をさらに歪ませて少女に食って掛かる。
「私が部屋にいるときは煙草はやめて下さいと何度言ったら分かるんですかっ!」
「…わかった、フェリス…。ところで今日は何の用だ?今日はちょっとばかし予定があるモンでな…手短に頼むぞ」
「予定?年中昼行灯で暇人な先生に…?」
少女は男の言葉を鼻で笑ってそう言った。
「失礼なヤツだ…俺も一応ここの講師だからな。生徒の頼み事は断れんのだよ…」
男は…ここの講師であるクロード・W・カレーニナは渋々と立ち上がると、窓の方を向いてひとつ大きく伸びをする。
「んんぅ〜〜」
「先生!今日こそは…」
「ヤバい!そろそろ時間か…」
時計を見て、クロードは大慌てで部屋を出て行った。少女を独り部屋に残して……。
・・・
「ミルト…居る?」
ケビンとリオンはミルトの部屋の前に居た。
「何だ…」
明らかに不機嫌な声のミルト。
やはり朝の出来事が原因だろう。
「話があるんだ…」
ケビンはミルトを刺激しないように、それでいてはっきりとした口調でそう言った。
「こっちにはないんだよ…さっさと帰って、課題でも仕上げて来い」
まるで取り付く島もない。
(ミルトはああいった事に結構敏感だからなぁ…)
「わかった。ミルトがそこまで言うなら僕は部屋に戻るよ」
そう言ってケビンは諦めて立ち去ろうとする。
………がちゃり……
ドアの開く音。
ケビンがその音に気づいて振り返ると不機嫌そうな顔のミルトが見つめていた。
(こういうときのミルトって…子供っぽく見えるんだよね……)
「何の用だ…?」
ケビンは今までの経験より「今朝の事の弁解に来た」などといったら再びドアを閉めてしまうであろう事は理解していた。
「昨日の仔が元気になったから連れてきたんだ」
「どこにいるんだ?」
ミルトは訝しげに辺りを見回す。
「この娘だよ」
ケビンはそう言ってリオンをミルトの目の前に立たせる。
「……………」
ミルトは疑わしい視線をケビンに向けながら黙り込む。
「信じられないかも知れないけど、これは本当の事なんだ」
「………」
ミルトはすぐに気を取り直してケビンの目を真っ直ぐに見つめた。
「嘘は…吐いてないみたいだな…入ってくれ。事情は中で聞く」
そう言ってミルトは二人を部屋の中へと促す。
そして二人が部屋に入って他に人がいないのを確認してからミルトは部屋のドアを閉めた。
「それで?…どういうことなんだ?」
ミルトはストレートにそう訊ねた。
「ねぇ、ミルト…「風華の使者」とか「白の眷属」って言葉に聞き覚えはない?」
それに対しケビンも問いで返す。
「「風華の使者」?「白の眷属」…確かどっかの文献で見た気が…」
そう言って本棚をごそごそと漁り始めるミルト。
「あった!コイツだ…」
ミルトはずいぶんと古ぼけた本を取り出すと、すごい勢いでページをめくり始める。
そしてその手があるページで止まる。
「白眉狼……」
そしてミルトはそうポツリと呟いた。
「白眉狼…って!それってまさか…」
ケビンはその単語には聞き覚えがあった。
白眉狼…それはあまりにも有名な霊獣。かつて太古に神を封じた際に、その人物と傍らに居たとされていた者だ。
遠吠えと共に吹雪を呼び、雪のような白い毛皮と紺碧の瞳、非常に高い魔力を持った霊獣だ。
しかしその毛皮の美しさと、高い魔力を秘めた爪と牙を狙った密猟が絶えずそのまま絶滅したと言われていた。
「そうか…まだ生き残っていたのか…」
そうしみじみと呟いてミルトはリオンをしげしげと観察する。
「なぁ…ケビン……」
「どうしたんだ?ミルト」
「一応、女の子なんだからさ…もうちょっとまともな服を出してやれよ」
「そんな事言ったって、僕が女物の服なんて持ってるわけないじゃないか」
「それもそうだな……」
「だからミルトに貸してもらえたらって思ったんだけど…」
「俺もそんな服は……いや待てよ…確か前に貰ったやつが…」
ミルトはごそごそと箪笥の中をあさって一つの古ぼけたケースを取り出した。
「この間クロードが押し付けていったやつだが…どうだ?」
苦々しげにミルトがそう言ってケースを開けるとその中にはコットンのシャツとスカート、麻のケープと頭巾と質素な感じの女性向きの洋服が入っていた。
「これってさ……」
「なんだ?」
ミルトは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「先生の趣味なのかな…?」
ケビンはそう言ってその洋服をしげしげと眺める。
「どうしようか?リオン…」
「私は別にこの格好でも構わないんだけど……」
「おいおい…まぁ、本人がそれでいいなら俺は何も言わないが…」
ミルトは少しあきれたようにそう言ったが、その服をしばらく見つめて
「やっぱり、持ってけ。着替えも必要だからだろうしさ」
と言ってその服を無理矢理リオンに押し付ける。
「とか言って本当は……」
ドカッ!!
ケビンがそう茶化して何か言おうとするとミルトに蹴りを入れられた。
「痛いよ…ミルト」
「ふんっ」
それをみていたリオンは突然笑い出す。
「どうして笑うんだ?」
「だって、二人ともとっても仲良しじゃない…」
「うん…付き合いも結構長いからね」
ミルトはそんな事を他人に指摘されると恥ずかしいのか、顔を赤らめる。
「ケビン!今日はないのか。クロードのヤツとさ…」
「えっ?もうそんな時間なの?」
ケビンはミルトの部屋の壁時計を見た。
「そうだね。もうこんな時間か…。それじゃ行って来るよ。リオンはどうする?」
「そうね…私はもう行くわ。ありがとうずいぶんと世話にな…」
パコン
「ふざけんな」
ミルトはリオンの頭を小突いてそう言った。
「なっ、何を…」
思わずケビンもうろたえてしまう。
「ったく、昨日の衰弱してた具合から見て、まだ体力も完全に回復してるわけじゃないんだろ?それにあんたが白眉狼だって言うんなら、本来は狼の姿のはずだ。魔力のストックもほとんど空の状態なのに事情は知らないが人に変化してさらに魔力を消費し続けてる……違うか?」
「うっ…」
図星だったようで、リオンは咄嗟にミルトから視線を外す。
「ミルト…お願いできる?」
「あぁ、任せとけ!」
ミルトはケビンに胸を張ってそう答えた。
「じゃあ、僕はもう行くよ」
「あぁ、じゃあな」
そしてケビンはミルト達と別れて、学院の裏庭へと急ぐ。
(先生に事情を説明して、いい加減医務室へ行こう)
ケビンがそんな事を思いながら廊下の角を曲がったときだった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
出会い頭に誰かとぶつかってそのまま尻餅をついてしまう。
「ごっ、ごめん大丈夫?」
ケビンはすぐに立ち上がり目の前の人物にいつもの癖でつい右手を差し出してしまう。
「えっ?ええ…」
その人物は少女であった。
「ごめん…急いでたもんだから…」
ケビンが咄嗟に差し出した手を少女が掴んで立ち上がろうとするが、ケビンはその手を無意識に振り払ってしまう。
当然少女は支えを失い再び尻餅をつく。
「きゃっ!」
「ごっ、ごめん」
ケビンは今度は反対側の手を差し出すが、少女はその差し出された手を無視して自分で立ち上がる。
「今度は…ひっかかりませんわよ」
少女はケビンをキッと睨みつける。
「そっ、そんな…僕はそんなつもりじゃ…ただ…」
「ただ?」
少女はケビンと息がかかりそうな距離にまで顔を近づける。
「いや、その……」
「ん〜?」
「えと……だから……」
整った目鼻立ち。
雪のように白い肌。
ルビーのような紅く光る挑発的な瞳。
そして銀色に輝く髪。
そんなかなりの美人に近寄られてケビンは頭の中が真っ白になってしまう。
「ふんっ!」
少女はそのままそっぽを向く。
そしてケビンが再び少女を見ると胸元に赤い染みがついているのに気がついた。
(もしかして僕の血…かな?)
「その…ごめん」
ケビンは少女の胸元を指差して謝る。
「どういうことですかっ!」
少女は先ほどよりも顔を真っ赤にして怒鳴る。
「えっ!?あの…」
その剣幕に押されあたふたとするケビン。
「サイズは、あなたとぶつかる前からこんなものでしたわよ。まっ、まったく…人がきっ、気にしている事を…!」
そう言って彼女は大きく手を振り上げてそのまま振り下ろす。
(うぁ…)
ケビンは咄嗟に腕を伸ばして少女の手を取るが、それにより腕の部分にも血が付着してしまう。
「ごっ、ごめん」
ケビンはもう一度謝って、今度はポケットからハンカチを出し彼女の腕についた血を拭き取る。
「えっ?あっ、あの…」
少女が戸惑っているのにも気づかずケビンは一心に少女の手をハンカチでごしごしと擦る。
そしてそれが終わると今度は、ケープの胸元についた地をポンポンと滲まないように取り除こうとする。
「だからっ!その…いい加減に…」
「う〜ん、ごめんね。血ってさやっぱり落ちにくいんだよね…」
ケビンはハンカチをそのまま彼女に渡す。
「落ちるか分からないけど…これで拭いて。悪いけど僕、急いでて…」
「だからいいって言って…」
少女がそう言ってハンカチを付き返そうとしたがケビンはすでにそこにはいなかった。
「なんなのよ…もう…」
少女は膝まで伸びる銀の髪を翻してその場を後にした。
ケビンに手渡されたハンカチを握り締めながら…。
第6話:sun is amber,moon is silver,star is platinum
「遅れてすいません!クロード先生」
ケビンが息せき切らせて裏庭に来るとそこには一人の男性…クロードが立っていた。
「あぁ、遅えぞ!」
クロードは苛ついた状態でタバコの火を踏み消す。
「すいません…」
「まぁいい、お前の事だからそれなりの事情があるんだろう」
クロードは2本の短剣を取り出してそれをケビンに差し出す。
「これは!先生の…」
「そうだ。俺様特製の魔術剣「アクセルエッジ」だ
「で?これをどうすれば…」
「何言ってんだ?今日はコイツを使って特訓だ」
クロードがそれの柄の先端を重ねるとその姿が巨大な双剣(メーネ)に変化する。
それを地面に突き立てて、自分はその場所から距離をとる。
「先生?」
そしてクロードはさらにどこから取り出したのか巨大な両手剣を構える。
「さぁどこからでも来やがれっ!」
その眼は明らかに楽しんでいる。
「あの…水を差すようで悪いんですけど…実は手に怪我をしちゃいまして…」
そういいながらケビンは真っ赤に染まった右手の包帯を解く。
するとそこには完全に開ききった昨日の傷跡が姿を見せ、そこからどろりと血が滴り落ちる。
「おい!お前その手!…」
クロードは手に持っていた剣を放り出してクロードに走り寄る。
「こういう事なんで医務室に行っても…」
ゴイン
「ぎゃっ!」
クロードはケビンに近付くとその頭にそのまま拳骨を落とした。
「怪我の理由は聞かねぇがどうしてここまでほっとくんだ!オラ!医務室行くぞ!」
そしてそのままケビンは医務室に引っ張られていく。
知らない間に双剣と両手剣はその姿を消していた。
・・・
「おーう、邪魔すんぞ〜」
ドカンと足でドアを開けるクロード
「邪魔するんだったら帰れ〜」
と老人のしわがれた声。
「ゴルァ!」
クロードはそのままつかつかとベッドの前を横切る。
「冗談じゃよ…お前さんが怪我を?…」
「そんなわけねぇだろ!コイツの方だよ!コイツの」
そしてずっと引きずってきたケビンを老人の前に座らせる。
「コイツの右手…さっさと塞いでやってくれ」
そう言ってクロードは二人に背を向ける。
「先生!どこ行くんですか?」
「いや自分の部屋に戻るわ。多分、まだ居るだろうからなぁ…」
クロードの言った事の意味が解らないとでも言うようにケビンが首を傾げていると、突然右手に激痛が走る。
「痛い!痛たたたたっ!」
「痛覚があるなら大丈夫じゃの…」
老人…学院医であるるジンはケビンの右手にくい込んでる絹糸を引き抜きながらそう言った。
「さ〜て…」
ジンの眼が妖しく光る。
ケビンは昨日も見た光景に身を硬くする。
そしてジンは糸と針を取り出す。
「!?」
ケビンはその光景に恐怖してさらに身をさらに硬くする。
「…………………」
「…………………」
しばらく二人沈黙の時間が流れる。
ごくりとケビンの唾を飲み込む音、二人の小さな息遣いがやけに部屋に響く。
「……ふぉふぉふぉ、冗談じゃよ」
「はぁ〜」
ジンはそのまま糸と針をしまい後ろの薬棚から2種類の水薬を取り出す。
そしてケビンの手にまずは黄土色のどろっとした水薬を垂らす。
そしてその上に透明な水薬を垂らす。
「っ痛!」
それは少ししみたのかケビンは顔をしかめる。
「太陽は琥珀…月は銀(しろがね)…星は白金(プラチナ)、大気に満ちる自然大力(マナの力)よ……地は豊穣なる恵みを…水は全てを洗い流せ…炎は消え去る灯火にもう一度力を…風は澱みし瘴気をなぎ払え!4つの力は祖の名の下に!」
ジンがなにやらケビンに手をかざして言葉を紡ぐとその傷は何も無かったかのように塞がっていく……わけではなかった。
「ジン先生…そんな長い詠唱しても、鎮痛と化膿を抑える効果以外のものはでませんよ」
ケビンがあきれたようにそう言った。
「まぁ、そんな野暮な事は言いなさんな。あくまでこういうものは気分のモンじゃからのぅ」
そしてジンは今度こそ糸と針を取り出す…がそれは錬金術で生成された医療用のちゃんとしたものだ。
「ほれ手ぇを出せ…さっさと縫い合わせておかんとな」
ジンは慣れた手つきで釣り針のような針でケビンの傷を縫い合わせていく。
その手にツヤとハリがあれば、まるで一つの芸術のように見えたのだろうが…。
「ほい!これで、傷自身の処置はお終いじゃ」
ジンは、パチンといい音をさせてケビンの手を叩く。
「っ!」
しかしその痛みは先ほどの魔術でだいぶ抑えられていたようだ。
「あまり右手を動かす事はせん様に…後は水に濡らすでないぞ」
とお決まりの注意を言いながらジンは先ほどと同じように手早く包帯を巻いていく。
「ありがとうございます」
「ところでその怪我は…」
ジンはその傷跡に疑問を懐いたのか訊ねてくる
「実は……作業してる途中によそ見して刃物でざっくりと…」
「ふむ…まぁ、いいじゃろ」
ジンは気にすることなくそのまま部屋の奥へと去っていく。
「何とか誤魔化せた…かな?」
そんなケビンの呟きは医務室の中の静寂にとけていった。
第7話:Anotehr view Noside 〜valiable magic and shine〜
「クロード先生!一体どこに行ってたんですか!?」
少女が部屋に戻って来たクロードを叱責する。
「さっき事情は説明しただろうが!」
クロードは苛々しながらそう答えた。
「どうしたんですか?先生…」
少女は先ほどとは違う様子に気づいたのか訊ねる。
「あぁん?欲求不満なんだよ!」
「えっ!?」
少女はその言葉に頬を赤く染める。
「お嬢様が考えているような意味ではございません。クロード殿はきっと暴れ足りないのでしょう」
と落ち着いた声の主が少女に向かってそう言った。
「そっ、そんな事、分かってるわよ!わっ、私が考えているような意味ってどんな意味よ!」
少女はその声の主に食って掛かるが、その主は慣れた様子なのか平然と聞き流している。
「ここではっきりとに私の想像を説明いたしましょうか?」
「うっ!うぅぅ…」
そううなって少女は黙り込む。
「なっ、生意気じゃない!従者の分際で!」
と思ったら少女はくわ〜と噛み付かんばかりの勢いで声の主に詰め寄る。
その声の主…真っ黒い毛皮のドーベルマンのような大型犬はそ知らぬ顔で今度はクロードに話しかける。
「クロード殿すみませぬ。大変、お見苦しい所を…」
「ハハッ!リフ!お前も大変だな!」
「お嬢様に仕えることが私の存在意義。辛いなどと思ってなどおりませぬ」
クロードが少し意地悪な声で言った台詞にそっぽを向いて答える大型犬…いや、リフ。
「まぁ…いいか…おい!フェリスちょっと付き合え!」
「何ですか?」
「あぁ、久しぶりに稽古をつけてやるって言ってんだ。どうだ?」
「どうせ先生の事ですから「いやだ」といっても無理やり連れて行くんでしょう?」
「まぁな」
少女…フェリスの指摘に苦笑いしながらクロードはそう答えた。
「まぁ、いいでしょう。私も少しストレス発散したいところでしたから…行くわよ!リフ」
「はいっ!お嬢様」
そしてクロードとフェリス、リフの2人と1匹は学院の裏庭へと向かった。
・・・
「んじゃあ、得物を取れや」
裏庭に着くとクロードは漆黒の両手剣を振りかざす。
「先生の得物って確か双剣(ツインエッジ)だった気がするんですが…」
そういいながらフェリスは腰元に挿した金色(こんじき)に輝くレイピアを引き抜いて構える。
「あぁ、今日は新しく作ったこいつの性能を試したかっただけだからな。基本は確かにそうだな」
そこでクロードは無駄口を叩くのをやめて真剣な目になる。
戦闘開始の合図だ。
「それでは…お願いします!」
フェリスは一礼してそれと同時にクロードの懐へと飛び込む。
「薙ぎ払え!エアリアル!」
そして詠唱と共にそのままレイピアをクロードの喉目掛けて振り上げる!
すると、それと同時に突風が巻き起こりクロードを吹き飛ばそうとする。
「旋風よ巻き起これ!ブラスト!」
しかしそれはクロードの放った強烈な突風と共に発生した衝撃波で吹き飛ばされる。
「くっ!」
フェリスはクロードから光のような速さで距離をとると今度は、レイピアを立てて構え、長時間詠唱の体制に入る。
「清浄なる白の力よ…闇を照らす一隅の光よ…空に輝く星の煌めきよ」
「させるかっ!」
クロードはその意図に気づいたか巨大な両手剣を振り上げたままものすごい勢いでフェリスの元へ飛び込む。
「…祖が照らすは吾が足元!…吾が前に立ち塞がる不浄なる者を打ち払う力を…闇を砕く清浄なる白き力を!シャインバースト!」
しかしそれより早くフェリスが詠唱を終える。
それと同時に、すさまじい閃光と熱量がクロードを襲う。
「決まった!」
フェリスは小さくガッツポーズを決める。
その一瞬の隙が命取りとなった。
「まだまだだな…」
「えっ!?」
その一瞬の隙をついてクロードはフェリスの背後に回りこみ、背中に刃先を突きつける。
「くっ!?」
「お嬢様!!」
さっきまで隅にいたリフが急いで走り寄ってくる。
「勝負…ありだ…」
そう言ってクロードは剣の平で軽くフェリスの背中を叩く。
「きゃっ!とと…」
フェリスもそれでこけそうになるのを何とかこらえてからレイピアを鞘に収める。
そしてクロードのほうを見てフェリスの目が点になる。
「先生…それは……」
驚くのも無理はない。なぜならクロードの持っていた両手剣は先ほどとは全く違う、フェリスの放った閃光のような、金色の光を放っていたからだ。
「魔力吸収(マナドレイン)…成功したからよかったモンの…ホントにヒヤヒヤものだったぜ…」
「嘘を言わないでください!」
フェリスは似合わない頬を膨らませるような仕草をみせる。
「私の魔術の射程範囲に入る直前に反射防壁(リフレクト)の魔術を使っていたじゃないですか!」
「はは…ばれてたか…。しっかし成功率3割がよくうまくいったもんだ」
そしてクロードが剣を大きく一振りすると剣は元通りに漆黒へと変化する。
きっと刀身に吸収されていたマナが大気中に還ったのだろう。
「ところで、前から聞きたかったんですけど、反射防壁と回避防壁(ドッジロール)の違いがいまいち分からないんですけど…」
「あぁ、それか…それは、反射防壁というのはその名の通り魔術を反射する働きを持っている障壁(バリア)を発生させる魔術だ。効果が「反射」だから少ない魔力で相手の魔術が大掛かりであればあるほど…という条件だが相手にダメージを与える事が出来る。しかし反射できる魔術と言うのは限られていてだな…いくつか反射できるもののその中では特に光の魔術に関して有効なものだ。それに対して回避防壁とは「相手の魔術を回避させる」障壁を発生させるんだ。これは物質系の魔術であれば大半の魔術に有効だ。逆に、光や闇といった架空物質…存在を感知しにくいものに対してその効果は薄い。こちらも魔力の消費量は少ないがあまりメリットがないので使用する局面は少ないだろう。なぜなら魔力消費量は格段に多くなるが絶対障壁(シールド)のほうが物理攻撃にもある程度は対応してくれるからな……」
「先生って、なんだか教師みたいですね…」
と当たり前のことを言うフェリス。
「当然だ!まぁ、普段は不良教師かも知れんが…」
と真っ向から反論できないクロード。
そしてクロードは剣を地面に突き立ててその平を背に地面に腰掛け、懐から煙草を取り出す。
フェリスがそれを見咎めるが
「外だったら文句はねぇだろ…」
とだけ言って、クロードは煙草を銜える。
そしてその隣にリフと一緒に佇んでいるフェリス。
しばらくしてクロードがフェリスを見ると、ケープに血の染みがついていることに気がついた。
「お前さっきの戦闘で怪我したのか?」
「えっ?どうしてですか?」
「ほれ、そこに血がついてるぞ」
クロードがその場所を指差す。
「あっ!これは……」
「どうした?何かあったのか?」
「ええ…実は……」
フェリスは先ほどの事を説明しながらさっき貰ったハンカチを取り出した。
「………ん〜それだったらおそらくケビンだろうな」
「ケビン?誰ですかそれ…」
「ケビン・ラングフォート…俺が指導教官を務める生徒のうちの一人だ…」
「というか…どうして特徴とかを言っていないのに分かるんですか?」
「あぁ、あいつならさっきまで俺と一緒だったし、そんな慌て振りを見せるのは俺の記憶の中ではそいつぐらいだからな…」
クロードはぷかーと気だるそうに煙を吐き出す。
「それでいて、とんでもない特技を持ってるもんだからな…ホント人は見かけによらないってこった」
「とんでもない特技?」
「あぁ、お前さんにも真似できねぇ様なヤツだ」
「無礼な!いくらお嬢様の教師と言えども!」
「リフ!落ち着きなさい!私は別に気にしてはいないわ」
リフが食って掛かるのをフェリスがそう言って黙らせる。
「続き…いいか?」
「ええ…どうぞ」
「あぁ、俺たち一人一人の魔力には「波長」がある事は知っているよな?」
「えっ?!…ええ」
フェリスは「何故、今更こんな常識的なことを聞くのだろう」と思い一瞬うろたえる。
「ヤツはもともとその波が不安定なんだ」
「それって……」
「つまりその不安定さを利用して限界はあるが、ある程度までなら波長を変換する事が出来るわけだ。」
そこでフェリスは首を傾げる。
「どうしてそれが、とんでもない才能なんですか?そんな事出来ても「封印鍵(マジックキー)が開けやすくなった」ってせいぜいコソ泥が喜ぶ程度じゃないんですか?」
「普通ならな…普通だったらそんな能力何の特にもなりはしない…だが、あいつの場合は鍛冶師で魔術剣を扱うヤツだからな…知っているとは思うが、魔術剣ってのは、初心者用の魔術触媒や集合器と違って全てが手製一品(オーダーメイド)だ。つまり、そいつの魔力の波長に合わせて一番力を発揮できるように調整されている。しかしあいつにはそれが必要ない。つまりどんな武器を扱ってもその武器の最大級の力を発揮できるんだ」
「それでも、普通は使うのは自分の物だけなんですから、役に立たないでしょう?」
しかしそれでもフェリスは納得できないのか、クロードにさらに説明を促す。
「まぁ、普通に考えればそうだな…しかしそれを利用する事によって武器の「組成変化(メタモルフォーゼ)」や「本質強化(レインフォース)」が自在に出来る様になると言えば…どうする?」
「それは……」
「そうだ、そりゃ本人の魔力の量によって制限はつくだろうが一つの武器で…」
そう言いながらクロードは腰から一対の短剣を引き抜く。
「こんな風に…」
クロードがそう言って右手の短剣を軽く振るとそれが長剣へと形を変える。
「出来るわけだ。まぁ、これは俺が元々こういう風に作っただけだから原理は違うかも知れんがな」
「正に…武具を創り、扱う者にとっては……鍛冶師にとっては最高の能力(さいのう)ですね…」
彼女は手の中にあるハンカチをぎゅっと握り締める。
「お嬢様……」
リフがそれを見てフェリスに声をかける。
クロードは立ち上がり、煙草を足元に投げ捨てる。
「まぁ、お前さんにもまだ分からないだけで、とんでもない才能が眠ってるかもしんねぇ。分かってるだけでもお前さんは近年稀に見る光の使い手だろうが…そうやって他人の事気にしてないで、もうちと自分に自身を持て」
そう言ってフェリスの肩を叩いてクロードは学院内へと歩き出す。
「先生…戻るんですか?」
「あぁ…大事な用事があってな」
「どんな用か聞いても構いませんか?」
「昼寝だ」
そう短く言ってクロードは学院内へと消える。
「クロード先生っ!もぉ…リフ!追うわよ!」
「はいっ!お嬢様!」
フェリスとリフもクロードを追いかけて学院内へと走り出した。
第8話:Partner is ...
ケビンは医務室を後にしてから、ミルトの部屋へと向かっていた。
なぜなら、先ほどのリオンという少女が気になって仕方がなかったからだ。
ケビンはミルトの部屋のドアをノックする。
コンコン
「誰だ?」
「ミルト…僕だ」
「ケビンか…開いてるぞ」
「うん」
そんなやり取りをしてからケビンは部屋に入る。
「ケビン!助けて!」
そしてドアを開けるのと同時にリオンがケビンに飛びつく。
「ちょ、ちょっと…」
「ちょっと!待てって!」
ミルトが追いかけてきて、リオンを捕まえようとするが、リオンは僕の後ろに隠れてミルトの方を恐る恐る覗き見ている。
「ミルト…何しようとしてたの?」
ケビンはため息混じりにそう訊ねた。
「いや…俺はただ……」
ミルトが何かを言いかけたのをリオンが遮る。
「何、女の子の服脱がそうとしてんのよ!最低!ヘンタイ!」
リオンはグルルと威嚇の声を上げているように見える。
「「はぁ……」」
ケビンとミルトで二人そろって大きくため息を吐く。
「なっ!何よ!二人してそんな哀れな子を見るような目をして!」
「あのね…リオン、落ち着いて聞いて」
ケビンはリオンと向かい合い両肩に手を置いて視線を合わすと話し始める。
「何を…」
「ミルトは女の子なんだ…だから別に…」
「えええぇぇえええぇえええ!!!」
ケビンが言い終わらない内にリオンの驚きの声が部屋中に響き渡る。
「ったく…どいつもこいつも、変わらないリアクションしやがって……俺だって傷つくんだぞ!そんな反応されると…」
ミルトは、ため息混じりにそう言って近くにあった椅子に座り込む。
「信じられない……」
リオンはまだ警戒しているのか、ケビンの後ろに隠れたままだ。
「リオン……ミルトの言っている事は本当だよ。うん…まぁ、リオンの気持ちも分からないことはないけどさ……」
ケビンはミルトに聞こえないようにリオンの耳にそっとそう囁いた。
「おら、ケビン…それはどういう意味だ?」
実はばっちり聞こえていたようで、ミルトはケビンの肩をガッシと力強く掴む。
「ミ、ミルト…いや…その…えっと…だから…その…ごめん」
「もういい…」
ケビンがしどろもどろになっているのを見て、ミルトは不機嫌そうに鼻をならし、そっぽを向く。
「本当…なの?」
リオンはその光景を見て少し安心したのか、ケビンの後ろからこそこそと出てくる。
「そういえばケビン。お前、右手は大丈夫なのか?」
「うん…とりあえずしばらく安静って言われただけだから。神経とかに損傷はないから後遺症もないみたいだし」
その会話を聞いてリオンの表情が暗くなる。
「ねぇ…その右手の怪我って…私の…所為だよね……」
「いや、これは、僕が少しドジった結果さ。リオンの所為なんかじゃない」
ケビンはきっぱりとそう言い切る。
「でもっ!…」
「やめとけ…。あいつは変に頑固だから、そう簡単に考えを変えやしねえよ」
ミルトがリオンの肩を叩き納得させようとする。
「でも……」
「もう、この話は終わりにしよう」
ケビンはそう言い切って、ミルトの部屋を後にしようとする。
「どこへ行くんだ?」
「自分の部屋で課題でもやってるよ」
ミルトは無言でケビンの隣につく。
「どっ、どうしたのさ…」
ケビンはミルトの突然の行動に戸惑ったような声でそう言った。
「どうせお前の事だ。また無茶して、傷口開けちまうんだろう?」
「うっ…」
「そして、じっとしてたら早く治るのにいつまでも治らない状態にするんだろ?」
「ううっ…」
ケビンは思い当たる節があるのか何も言い返さない。
「ねぇ、ミルト…」
「どうした?リオン」
「私が、手伝ったらダメ…かな?」
「鍛冶師の手伝いはパートナーがする物。今の僕にはパートナーは居ないからね…」
ケビンはそうとだけ言って部屋を去る。
「ねぇ、ミルト…パートナーって?」
「う〜ん、願掛けみたいなものかな?」
「願掛け?」
リオンは不思議そうな顔でミルトに訊ねる。
「あぁ、この辺での御伽噺で「神様と戦った鍛冶師」の話があるんだが…」
「知ってる」
リオンはミルトの声を不機嫌そうな声でさえぎる。
「ん?そうか…なら話は早いな。その鍛冶師の傍に使えていた者が常に居たってところから、パートナーを決めて何かを「創る」時はそいつと一緒に…ってのがあるんだよ。あくまで慣わしとかそんな感じなんだけどさ。俺は違うけど、みんな大抵、飼ってる犬とか猫とかが多いから見守る以外のことは出来ないと思うんだけどな…」
「…………」
リオンは何も言わずにミルトのほうを見ている。
「食べるか?カ○リーメイト…ベジタブルだけど……」
ミルトは口に銜えようとしていたものをミルトに差し出す。
「いっ、いらない…」
そう言い返すリオンだが、それと同時にリオンおなかからグ〜という音が聞こえた。
「身体は正直だぞ」
ミルトの声にちょっぴり邪な響きが混じる。
「これは違うのっ!えっと、ね……ケビンのパートナーって私は会ったことないから、どんな…」
「俺のにだって会ってもいないだろ?」
ミルトがそこでその質問をさえぎるようにそう言った。
「いえ、もうお話も済ませたわよ。あなたの傍で飛び回っている焔狐がそうなんでしょ?名前は…センカよね」
「なんだ…見えてたのか。白の眷属…さすがだな」
ミルトはセンカに姿を見せるように言い、肩に乗せる。
「キュウ!」
「ふふっ、さっきも言ったけどよろしくね。センカ」
そう言ってリオンはセンカを抱きかかえ、そのまま頬擦りをする。
「キュキュッ!」
しかしセンカはその腕の隙間をすり抜けていってしまう。
「む〜ん」
「ははっ、嫌われちまったな」
ミルトは再び肩の上に戻ってきたセンカの頭を撫でると立ち上がり、そのまま部屋の奥へと向かう。
「どうしたの?」
「お腹空いてるんだろ?何か適当に作ってやるよ。けど、味はあんまり期待しないでくれよ」
「ごはんっ!?」
「やっぱり腹減ってたんだな……。どうせケビンのことだからその服とかで手いっぱいな感じだったんだろ?それにあいつは朝食は食べない人種だしな」
ミルトは苦笑いをしながらそう言った。
「うん……」
「よしっ!センカ、火の方を頼む。俺はその間に下ごしらえをしちまうから」
その光景を見ながらリオンはケビンのことを考えていた。
第9話:an old a scar
その光景に、ミルト・キルフィルドは、驚くばかりであった。
今まで早食いをするのは何度か見た事はあったが、それでも限度があった。
目の前で皿の上の物が正に“消失”していくのだ。
リオンは普通の人であれば3人分はあるはずの量の食事をおよそ30秒ほどで片付けてしまった。
ミルトでなくてもその光景には驚いただろう。
「おかわりっ!!」
そして、そのぽかんとしたままのミルトにリオンは皿を突きつけてそう言った。
「……あっ、ああちょっと待ってろよ…」
ミルトも気を取り直して、再び台所に立つ。
ミルトが後ろを向くと獲物を狙うかの様に眼を爛々と輝かせたリオンがいる。
(やっぱり狼ってのは肉食なんだから野菜より肉の方がいいのか?)
そんな事を思いながら台所の脇にある冷蔵庫(冷気の魔法を利用したもの)から立派な鳥の足を2本取り出す。
「センカ!頼む」
センカはそれを聞いて、尻尾を振り炎を呼び出してその鳥の足を炙っていく。
それがじゅうじゅうといい音を立て始めるとリオンがそわそわとし始める。
「こんなもんか?」
ミルトはセンカに火を止めるように言って炙った鳥の足をリオンの前まで持っていく。
「いいの?食べていいの?」
リオンは涎を垂らしながらミルトに聞くが、その目はすでに鳥の足に釘付けだ。
「ったく…ほれ、ちょっとは落ち着いて食え…ちなみにそれで最後だからな」
「ええっ!こんなもんじゃ全然足りないよっ!う〜」
リオンは恨みがましい眼でミルトを見る。
「ったく…どんな胃袋してんだか…」
ミルトは大きく溜息を吐きながらリオンの隣に座る。
「後は食堂にでも行かないとな…俺の非常用の食料をこれ以上荒らされたらたまったもんじゃない」
「食堂?…普段からここでご飯食べたりするんじゃないの?」
リオンはミルトの部屋のキッチンの充実しているさまを見て首を傾げる。
「あぁ、食事に関しては自由だからな。ここで食うのも、食堂に行くのも」
「じゃあ、食堂つれてって!」
リオンの目はきらきらと輝いている。
「いいけど…お前、お金持ってるのか?」
「お金って?」
「はぁあ……」
ミルトは、大きくため息をついた。
ところ変わってここはケビンの部屋。
「っ痛!」
ケビンは作業中に咄嗟に出てしまう右手を庇いながら作業を続ける。
「ふぅ……螺子一本探すのも一苦労だな……」
「探してるのはどんなやつ?」
リオンがケビンの気づかない内に隣に立っていた。
「えっ!?」
「だからどんな螺子を探してるの?」
「これと同じやつなんだけど……」
ケビンは驚きながらも、かつての習性か、返事をしてしまう。
「う〜ん、分かった。ちょっと待っててすぐに見つけるから!」
リオンはケビンの手にある螺子をまじまじと見てから、ガラクタ箱の中をガサガサと漁り始める。
「リオン……」
「どうしたの?」
呼びかけに応じて、リオンは作業を中断してケビンの方を見る。
「どうして手伝ってくれるの?」
ケビンは真剣な目でリオンに尋ねる。
「ふふっ」
リオンは何がおかしいのか突然、笑い出す。
「どうして笑うのさ」
「いや、ね……「ミルトの言う通りだな」って思ったらおかしくて……」
「ミルトの言うとおりって……」
(僕ってそんなに分かりやすいんだろうか……)
「う〜ん、私考えたんだけどね。ケビンって今パートナーがいないのよね?」
「うん…まぁそうだけど……」
ケビンの胸にチクリと小さな痛みが走る。
「だから、私がなってあげる」
「「なってあげる」ってパートナーに?」
ケビンは驚いた顔でリオンの方を見る。
「うん」
リオンは無邪気に微笑むがケビンの表情は硬い。
「出てってくれ……」
ケビンが静かにそう言い放つ。
部屋の空気が一瞬にして凍りつくのが分かる。
「でっ、でも……」
「出て行けっ!」
ケビンは怒鳴ってそのままリオンを小屋の外へと追い出す。
「ちょっ、ちょっと」
リオンがあわててドアを開けようとするが扉は硬く閉ざされていた。
「なんで、あんなに怒ったんだろう?」
リオンはケビンの小屋に背を向けてとぼとぼと歩き出す。
その一方でケビンは小屋の中で独り、壁に凭れ掛かって座り込んでいた。
「はああぁぁあ、馬鹿な事しちゃったな……いまさら……しかも他人に当たることじゃないのに……」
・
・
・
「くそっ!」
ドンッ!
ケビンは包帯で巻かれた右手を壁に叩きつける。
その拍子に包帯が千切れ、傷口が開き、血が飛び散る。
しかし麻酔のためか、ケビンは痛みを感じなかった。
「どうして……痛くないんだろ……この手……」
その問いに答えるものは誰も居なかった……。
第10話:lion's side 〜Hero's solitude〜
「お〜い、いるのか〜?」
空に一番星が輝く頃、ミルトがケビンの小屋へとやってきた。
「ったく……寝てるのか?」
ミルトがドアノブを回すと鍵がかかっていなかったのか簡単にドアが開く。
「ケビン……いるのか…って、うあっ!」
ミルトは部屋に漂う血の匂いに一瞬顔を顰める。
「ケビンッ!」
ミルトが部屋の中に踏み込むと片隅に蹲って右手を自身の血に染めたケビンが居た。
「ケビンッ!どうしたんだっ!」
「リオンは……?」
ケビンは覇気のない声でそう訊ねる。
「えっ?俺のところには来てないぞ……。何かあったのか?」
「……うん、だから……」
「だから……?」
「探してくる」
ケビンはぶっきらぼうにそう言ってそのまま外へと走り出す。
「おっ、おい!待てよ!ケビンッ!一体……」
ミルトが呼び止めるのも無視して、ケビンは夕闇の中を走り出した。
・
・
・
「…で、キッシュの野郎がさ〜」
「どうなんだ?」
「待ってよ〜」
街中を歩いているとさまざまな会話の断片が聞こえてくる。
ヒトは随分と呑気なものだ。
これほどの“歪み”を察知できないとは、たいした鈍さだと思う。
しかしそれに対してヒトの“心”に対してはすごく敏感である。
ヒトと触れ合った事がある私にとって、それはとてもうらやましいことだった。
(どっちにしろ、これでよかったんだよね……。私が居ると迷惑がかかるのは分かりきった事なんだから……)
私はケビンたちの居た学院を後にしてから、街中ををぶらぶらと歩いていた。
ホントなら隣町へと続く街道をかなりの距離を進めているはずなのに…。
「やっぱりまだ何か引っかかってるのかな?それでも……」
(私は、“ヒト”とは違うんだから……)
その言葉を飲み込んで私は街の外へと歩き出す。
いい加減ここを離れよう。
彼の手の怪我のことは気になるが、あんな風に別れた後だ。もう追ってはこないはず……。
そのとき前から歩いてきた人と私の肩が軽く触れた。
「ごっ、ごめんなさい」
「余所見してんじゃ……て、へへっ、なかなかの上玉じゃねえか」
その男は下品な笑いを浮かべて私を見る。
「ごめんなさい。それでは……」
私はさっさとその場から離れようとしたが、男が私の腕を掴む。
「なっ、何を……」
「「ごめんなさい」だけで許してもらおうなんざ、少し虫が良すぎねぇか?」
「ごめんなさい」
私はただ謝る事しか出来ない。
そして逆らうことなく裏道の方へと引きずられていく。
(だって……殺るなら、人に見られないようにしないとね…)
自分の顔に残忍な笑みが浮かぶのが分かる。
(だめ……私は……)
さっきまでの考えを振り払うかのように私はかぶりを振る。
「さぁ〜てと、ここまで来ればいいだろう」
男はニヤリと笑うと私に向かって腕を突き出してくる。
「待てっ!」
「ケビン……」
・
・
・
「待てっ!」
「ケビン……」
それはリオンにとっては、まるでピンチのときに現れるヒーローのようなタイミングだった。
「何だてめぇ…」
「彼女から手を離してください」
ケビンは物怖じすることなくきっぱりとそう言い切った。
「うるせぇ、さっさと消えろ!」
「そういう訳にはいかないんです」
一歩一歩ケビンが男との距離を詰めていく。
ドンッ!
「きゃっ!」
男もリオンを突き飛ばすと、身構えて戦闘態勢に入る。
「リオンッ!」
ドカッ!
ケビンがリオンの方を見た隙を突いて、男はケビンの頬を思いっきり殴りつける。
「ぐっ…」
ケビンは後ろに倒れそうになるが何とか持ちこたえる。
「うぉおお!」
その姿勢からケビンは強烈な左フックを相手のわき腹に打ち込む。
牽制が目的ではなく相手の戦闘能力を奪うための一撃だが、それでも男は倒れない。
それどころか男は逆上してナイフを取り出す。
「この野郎…痛い目を見ないとわからねぇみたいだな…」
「くっ……」
ケビンは、なんとか男の後ろに回りこんで、リオンの前に盾になるように立った。
(刃物か……どうしよう?とりあえず、リオンだけでも……)
ケビンは自分の右手を見る。
(動かせない事はないけど…傷口が完全に開いちゃってるな……これだったら、怪我が増えても変わりないだろうし……)
「リオン!逃げて!」
「えっ!その……」
リオンはおたおたとするだけで動く気配がない。
(腰が抜けたのか……?)
「オラァ!」
男の右手が一閃する。
ケビンはそれを右手で掴む。
手のひらが切れぐしゃっという嫌な感触がしてケビンの右手から大量の血が飛び散る。
「ぐうぉおお!」
そしてケビンは痛みをこらえながら、左で相手の顎に向けて掌底を放つ。
ミシッと嫌な音がして男はそのまま倒れる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ…」
ケビンがナイフを掴んだまま佇んでいると、ミルトが駆け寄ってくる。
「ケビンっ!大丈夫かっ!」
「ったく…相変わらず自分を労わらないヤツだな…さっさと手を出せ。応急処置ぐらいはしとかないとな…」
「そっ、その……」
「大丈夫だよ…」
ケビンはリオンに微笑んでそう言った。
「でっ、でも……」
「さっきは、ごめん…」
「へっ!?」
突然頭を下げて謝るケビンを見てリオンがうろたえる。
「完全な八つ当たりだった…そっちが厚意でしようとしてくれた事なのに…」
「あぁ…けどそれは私が……」
リオンが何か言おうとしたのをミルトが押しとどめる。
「リオン…とりあえず学院に戻るぞ。この馬鹿の手当てをしなくちゃいけないからな」
・
・
・
「一日に二度も同じ患者に同じ手当てをする羽目になるとはの」
医務室の重鎮、ジンが苦笑いをしながらケビンの右手を治療していく。
「ジン先生…思い切ってコイツの右手、動かせないくらい包帯でぐるぐる巻きにしてやってください。でないとまたおんなじ様なことしてきますから…」
「分かっておる、分かっておる…」
ジンは苦笑を続けながらミルトの言うとおりケビンの右手を包帯でぐるぐる巻きにしていき、最後にネットを被せた。
「今度こそ、抜糸の時まで、世話にならんようにな」
「はい…」
ケビンも苦笑いをして、医務室を後にする。
ケビンが小屋に戻るとそこには、リオンとミルトが居て、テーブルの上にホカホカの食事が出来ていた。
「さぁ、メシにするぞ!さっさと椅子に座れ」
「いただきま〜す」
「いただきます」
三人で挨拶をして夕食を食べているうちに時間は過ぎていった。
諸事情により小説連載の方をしばらくお休みさせていただきます。
その為、現在執筆が終わっている所まで大量投下させていただきます。
第4話:silver pain
僕たちが学院についたときその門は硬く閉ざされていた。
門限を2時間も過ぎているのである、当然の事だろう。
正直者であれば門番に頼んで門を空けてもらい、教師陣に説教を喰らうのであろうが、僕たちは誰にも見られないように学院の裏手へと移動する。
「ここだったよな…」
「うん」
ミルトは言葉少なめに何の変哲もない壁をコンコンと叩く。
すると、その壁に穴があき見ているまにその穴は人ひとり通れる程の大きさになる。
「先輩サマサマだよな。これは…」
ミルトがそう言ってその穴をくぐる。
僕もそれに続く。
そして先ほどと同じように、壁を叩くとその穴が閉じる。
・
・
・
学院内には寮が二つと小屋のたくさん建ち並ぶ広場、講堂や講義室のある校舎の三つに分けられる。
錬金術師志望のものは寮、鍛冶師志望の者たちは作業部屋を兼ねた小屋を一人一つ与えられる
僕は鍛冶師志望なので僕の部屋…小屋が一応ある。
そして、僕とミルトで獣を僕のベッドの上に運び込む。
「怪我は…ないみたいだね」
「あぁ、だがひどく衰弱してる…待ってろ。薬、適当に持って来る」
錬金術の本質は物質の性質変化。
世間一般ではそれを利用した魔法薬の精製が盛んである。
ミルトもその例に漏れず魔法薬の精製を行う事が出来る。
「持って来たぞ…」
5分ほどして、ミルトは片手に小さな瓶を握りながら息をきらせて現れた。
「炎の秘薬「エルビトリン」があったからとりあえず持ってきたが…これじゃ強すぎるか?」
エルビトリン…それはかなりきつい気付け薬だ。
人間でもかなりきついのだからこのような獣であれば尚更だろう。
「確か…中和薬がここにあったはずだからそれで薄めればいいと思う」
僕はそう言って棚の中を探し透明な液の入った瓶をミルトに渡す。
「よし!えーと……50倍希釈で…」
ミルトはどこから持ってきたのか、フラスコなどを取り出して簡易調合を始める。
そして1分もかからぬ内に、薄められた薬が僕に手渡される。
ミルトが獣の口をこじ開け、僕はその中に薬を流し込む。
しばらくして咳き込むようなそぶりを見せて獣がうっすらと瞳を開ける。
「!」
獣は電撃を受けたかのようにびくりと立ち上がって、僕達から距離をとる。
「グルルルル…」
うなり声を上げてこちらを威嚇する。
「ミルト!」
ミルトが弓を構えようとするのを僕は押しとどめる。
「グルルルル…」
僕は相変わらず警戒している獣の方へと一歩踏み出す。
獣は一歩後ろに後ずさる。
また僕は一歩前へ踏み出す。
獣の体が強張る。
飛び掛る準備だろうか?
白銀に輝く毛が一斉に逆立つ。
しかし僕は無防備な状態のまま、さらに一歩踏み出す。
「グルルル…ウウゥ…」
僕は視線の高さを合わせるために屈む。
そしてゆっくりと手を伸ばす。
ザシュッ
「っ!!」
僕の手は獣の爪によって弾かれる。
ポタリ……ポタリ…
弾かれた手から赤い雫が滴り落ちる。
傷はそんなに深くはない様だったので僕はもう一度試みる。
白銀の獣…いや、純白の狼はまだ警戒を解かず、再び僕の手に向けて爪を振り下ろす。
「がっ!?」
今度は深く入ってしまったのか激痛が僕を襲った。
しかし僕は手を伸ばす事をやめない。
そして白くて所々紅に染まる毛に触れてそのまま抱きしめた。
「ウウウウゥ…」
「怖がらなくていいよ…。誰も君には危害を加えないから。ねぇ落ち着いて…」
僕は小さい子供を諭すようにこわばった背筋を撫でならがそう言う。
「ウゥ…」
やがてうなり声は小さくなり、そして体の力が抜ける。
どうやら緊張の糸が切れたのか再び眠ってしまったようだ。
「ケビン!手ェ見せろ!」
狼が落ち着いたのを見てミルトは僕の腕を取る。
「ッ!痛いって、ミルト…」
そう言ってから僕は始めて自分の手の状況に気づいた。
僕の手の甲はざっくりと鋭利な刃物で切り裂かれたようになっていた。
「ったく…馬鹿野郎!鍛冶師にとって腕と手は命だろうが!」
「だから利き手と反対側を出したよ!ちゃんと」
「そういう問題じゃねぇ!この超ド級の馬鹿野郎がっ!」
ミルトは消毒液を僕の手にぶっかける。
「痛たたっ!ミルトぉ!」
「我慢しろ!男だろうが!」
そして今度はどこからか針と糸を取り出す。
(まさか……)
僕は背中にいやな汗が伝うのを感じた。
「麻酔はちょっとしかないからな。歯ぁ食い縛れ。まぁ安心しろ。鎮痛剤はちゃんとあるからな」
ミルトは真剣な顔だ。
「なああぁあぁあああぁあ!」
夜の闇に僕の悲鳴が響き渡った。
第3話:bloody fang
「ミルト、帰んないとさすがにまずいかな?」
「あぁ。だから早く帰るぞって言ったんだ」
ミルトはあきれたようにため息をつきながらそう言った。
結局あの後二人で、屍骸の処理などを終えたころには、完全に夜の帳が下りていた。
そして僕らが帰ろうとして立ち上がった時だった。
「キュウ!キュキュキュキュ!」
突然センカが今まで見た事ないほど慌てだす。
「どうしたセンカ?」
「キュウ!キュキュ!」
センカは必死にこちらに何かを伝えようと足や尻尾をばたばたと動かして暴れる。
「おい!こらセンカ落ち着けって…」
そう言ってミルトはセンカを落ち着かせるためにいつもやっているように頭を撫でるが、それでもセンカは落ち着かずミルトの腕の中から飛び出す。
そして何かを目指して藪の中に飛び込んで森の奥へと向かう。
「センカッ!」
ミルトがそれを追いかける。
「待って、僕も行く!」
そうして二人でセンカの後を追う。
センカはこちらを振り返ることなく、どんどんと森の奥へと向かっていく。
そうして森の奥に近づくにつれ僕は血の匂いが漂ってくるのに気がついた。
「ミルト…」
「わかってる」
見るとも感じたのか表情を引き締め、弓を握る手に力を込める。
僕も短剣を握り締め、魔力を練り始める。
そして5分ほど走っただろうか?
森の開けている場所が見え、そこに近づくたびにいっそう血の臭いが濃くなっていく。
「くっ!」
僕はむせ返るような血の臭いに顔をしかめて鼻を摘む。
森の開けた場所には血の池が広がっていた。
そしてその中心で白き月光を浴びた白銀の獣が牙を真紅に染めて立っている。
そしてその周りには力尽きた狼の群れ。
血溜まりの原因はこれだったようだ。
センカはその血の池も気にせずその獣の前へと歩み出る。
「キュウゥウ」
そして頭を上げてその獣を見つめる。
その目に映っているのは尊敬と畏れであろうか?
「センカ…?」
ミルトがその光景を見て近づこうとするが血の池を見てそれを躊躇っている。
「ミルト…。僕が行くよ…」
それを見て僕はミルトにそう言い、革靴に血がつくのも構わずゆっくりとセンカとその獣の下へと近寄る。
センカの様子を見て危険はないとは思っていたが警戒を解いたわけではないので、短剣は握り締めたままだ。
ミルトが後ろで矢を番えているのが分かる。
センカがその獣に背を向けて僕の方へ向く。
獣は先ほどからぴくりとも動かない。
月光を反射してまるで純銀の像のようだ。
(生きているのか?)
僕がそう疑問に感じ始めたときだった。
白い獣は突然血溜まりの中にべちゃっと言う嫌な音を立てて倒れこむ。
「キュウ!」
センカが一際大きい声で鳴いて僕を見る。
「助けろ」とでも言っているのだろうか?
僕がセンカの真意を測りかねていると、ミルトがこちらに近づいてくる。
「ケビン!」
「ミルト…、どうする?」
野生の動物である以上人が手を出すのはいけない事だ。
そんな事は僕も十分理解していたが、一応ミルトに訊ねる。
「……センカがここまでつれてきた時点で何か意味があると思う…。う〜ん、連れて帰るか…」
ミルトがそう言ったので僕は獣を抱えあげる。
倒れこんだ時に毛皮についた血液が僕の服を紅に染める。
「ケビン…服が……」
ミルトが心配そうな声を上げるが、僕は
「構わないよ。僕も放ってはおけないと思ったから…」
と言って、さらに服が汚れるの構わず背中に担ぐ。
そして、結局、僕たちが学院にたどり着いたのは門限を2時間もオーバーした後のことであった。